年の始めに
この度の震災にあたり、早期の復興を祈念いたします―
冬の日本海
先月から比較的温かい日が続き、春を思わせる陽気の年明け。よく晴れた日は、お隣りの新潟県は上越まで出かけると、とても穏やかな海が目の前に広がる。何しろこちらは山国育ち、海を見るだけで嬉しくなるものだ。
海はいい。こんな景色を窓から見ながら海に近い道路を走るだけでも楽しい。急ぐことがなければ下の道がいい。能生あたりの漁村や、糸魚川、親不知まで足を運ぶと絶景が待っている。
海はいいが、海のものはなおさら良い。流通が発達して多くのものが手に入る現代でも、やはり海の市場へ行けば豊富な海の幸が揃っている。こんなものが毎日の買い物で手に入るのだから、何と羨ましいことだろう。
正月の食卓
ありふれた小いわしの煮干しも、よく炒って少し甘みを加えて甘辛く、サクサクと歯ごたえの良い田作りに。つややかな朱色をした海の卵はふっくらと。数の子は甘く酢漬けにしておくとほどけるような口当たりになる。一番は 昆布巻き。鮭を巻いたものも良い味がするが、やはり食べ慣れた鰊と昆がこの上ない組み合わせである。
この時ばかりは、手間をかけて作ったお醤油豆や野沢菜漬けはすっかり影をひそめてしまう。海老に蟹にときりがないおせちも、これだけで十分すぎるほどだ。
昆布巻きにはよく日高昆布が使われる。昆布の生産地について、利尻昆布 で知られる利尻町のウェブページに「利尻こんぶはだし昆布です。北海道産の昆布が出回る北陸では昆布巻きやとろろ昆布、おぼろ昆布…」とあった。だし昆布を使うとは意外な気もしたが、何しろ富山は昆布の消費量が日本一。さまざまな昆布料理があるから、これもありなのかもしれない。
そこで今回、利尻昆布で作ったのが写真の昆布巻き。何しろ硬い昆布だから、いくら煮込んでも崩れる気配がまるでない。コシがあって柔らかく、鰊もホロリとする食べやすい昆布巻きになった。
もう一つの長野の海
上越にとどまらず、さらに新潟まで向かう人もいれば、西へと向かって富山まで足を運ぶ人もいる。富山などは、この時期、海の幸を味わうには最高で、蟹もいいし寒鰤もちょうどよい頃である。山ばかりに囲まれた長野と違い、富山は立山連峰を背にして海を眺め、海からは山々を拝むことのできる、実に羨ましい土地だ。日頃からこんな風景を見ていたら、もっとおおらかに生きられるはずだ。
宿は温泉もあるから、雪見をしながら一風呂あびて、ご馳走をいただく最高の贅沢は、多少古くても昔ながらの海の宿でいい。あまりかしこまった料理でなく、鰤その他新鮮な刺し身がこれでもかと山盛りになって出てくる。
鰤といえば、刺し身はもちろん、鰤大根 などはお安く美味しい一品である。鰤しゃぶ もある。昆布出汁に薄く醤油を足して、そこに梅干しを一つ(2人分)入れておく。大根、長ねぎ、水菜を刻んで煮詰めたところに、さっと薄手の鰤を泳がしていただく。シメにご飯を落とすとちょうどいい味加減になるのだ。
その他にも 鰤カツ は、豚カツと比べても劣らぬ美味である。およそ長野で目にしない料理は、日本海に出かけて覚えてきた味である。もう一つ、鰤うどん はどうだ。これも薄いだし汁にネギその他好みの野菜を入れた中に梅干しを加え、軽く焼いて少し油を落とした鰤をうどんの上に乗せたものである。梅との相性がよく、さっぱりしてコクのある味がする一品だ。
今年の願い
年明けの地震で自然の怖さを見せつけられた正月。思えば、海だけでなく山も川も、災いが起きると何を食べるかどころでなくなってしまう。穏やかな自然に囲まれ、健康に過ごすことが何より願うことである。
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