冬に食べたい懐かしい味 (前) ― お醤油豆・野沢菜漬け
この地方に暮らすと、この時期ほしくなる食材がある。今やこれなしでは冬を過ごせないほどの味、それが 野沢菜漬け と お醤油豆 である。
今も多くの人に好まれるこれらの料理は地域の食文化でもあり、長らく受け継がれてきたもの。それぞれ好みがあり、やはりウチのが一番と言いたいのを抑えてもてなしを受けるのも、また郷土食の良さなのだ。
手作り醤油豆
ここ長野、とりわけ北信地方に広く伝わるお醤油豆とは、黒豆や大豆を発酵させて醤油で漬け込んだ食品である。四国地方の醤油豆は、地域が異なると食も変わるようで、これとは異なる。
材料の発酵させた豆と米麹が必要で、これを求めて松代町の味噌蔵まで行くのがお決まりになっている。材料が入った袋を持ち帰り、まずは 甘酒 を作る。米麹の塊ををほぐして器に入れ、ちょうど浸るくらいに湯冷ましの湯を注ぐ。保温器で6時間もすれば、麹の香りが漂う甘酒ができる。
袋に入った豆は呼吸をして袋に露がついてくるので、頃合いを見て豆を漬物樽に入れ、これもぬるま湯を、豆が湿り気をおびる程度にかけて置いておく。これで豆がよりふっくらと仕上がるのだ。
甘酒の熱がとれたら、最後に材料を混ぜる。販売元の勧めによると、豆と米麹(それぞれ約1kg)に対して、醤油4合、みりん3合とされるが、甘酒だけでかなり甘いこともあり、みりんは使わず、醤油は400ml程度に減らして漬けている。甘酒も多すぎるので、3割ほど減らして残す。
これで塩分が減らせ、それでいて甘すぎることなく醤油のコクがある好みの味になる。甘酒にしても、麦を使う作り方もあり、好みはさまざま。それにしても、甘酒に醤油を混ぜるとは、こうすればうまかろうと思って試したというよりは、たまたま何かやらかして出来たように思えて仕方がない。あとはよく混ぜ、ときどき混ぜながら味をなじませる。
野沢菜を漬ける
松代まで出かけたついでに、直売所で野沢菜を仕入れてきた。昔のように大家族で近所中にふるまうような食べ方はしないから、1束3kgもあれば十分。しばらく前は、あちこち庭先に樽を出して お菜洗い をするのが見られた。もうそこまでする家庭は少ないようで、わが家も3kgばかりであれば狭い台所ですませている。
持ち帰ったお菜は、日中しばらく外で広げておく。これも以前はどこでも見られた光景である。今年はかなり コワい (強い)お菜で、少ししんなりさせないといけない。あと、ひどい虫食いや、食べられなさそうなところを取り除く。
そしてお菜洗い、この量なら流しに置いた樽でも洗える。特に根本の土をよく落とす。よほど天気がひどくなければ泥だらけということはなく、生産者も気をつかって切口の余分なところを何度も切り取り、すっかりきれいにしてある。これは良いお菜だ。
塩だけで漬けるため、お菜の重さに対して3%の塩と、浅めの樽に1斗用の漬物袋を用意する。そんなんじゃ漬かるめぇと言われそうだが、実際、幾度となくお菜を漬けた私の母もそうで、「それじゃあ水が上がるまい」と言う始末。水が上がる というのは、ほどよい塩の量だと一晩でお菜が水にひたり、うまく漬かった目安になるのだ。
漬けにかかろう。ここで、コワそうなお菜を先に、下の方に置いて、細めの柔らかいのは一番上にすると、ムラなく漬かり上がる。
樽の形に沿ってお菜を置き、曲げづらいコワいお菜はそっと丸めて入れる。塩をふりかけながら、最後まで詰め込むとこんな具合。カップ半分くらいの呼び水を入れてある。なるべく空気を抜いて袋をしばり、重しをする。
さて、全部一気にやると一息つきたくなる。出来上がった甘酒がとても美味しい。あとは一晩寝て待つとしよう。(続く)
コメント
コメントを投稿
コメント歓迎します。(アドレスは表示されません)